年間線量基準を20ミリシーベルトに引き上げるのか?

(フクシマの影響)

 国際放射線防護委員会(ICRP)は、その勧告109と111を改正する予定でいます。そのためのレポートがまず公開され、2019年10月25日までにその改正案にコメントを出すことができました(1)。

 日本では、改正案に対していろいろと不安が出ています。そのため、市民グループを中心にコメントが出された模様です。しかしドイツでは、この改正の予定についてあまり知られておらず、ドイツからは多分コメントが出ていないと思われます。

 ICRPの勧告109は原発事故など緊急時の放射線防護対策について勧告するものです。そのための年間線量基準値として、20ミリシーベルから100ミリシーベルトを推奨しています。基準値に幅があるのは、各国によってそれぞれ事情が異なるので、各国がその事情に応じて適切と思われる値を規制すればいいとの考えがあるからだと、ドイツのヴァイスICRP委員から聞いたことがあります。

 勧告111は、緊急時の後、汚染が長期化するとともに、回復していく時期の放射線防護対策を勧告しています。ここでは、年間線量基準値として、1ミリシーベルから20ミリシーベルトを推奨しています。ただここで、基準値はできるだけ一番低い1ミリシーベルから選ぶよう推奨しています。

 今回の改正案では、この109と111の基準値を基本的に変えるものではありません。それに対して、よくわからない「参考レベル」といわれるものを導入すると提案しています。

 ぼくが理解した限り、参考レベルは以下のように使うでべきだということです。

 参考レベルとして、たとえば年間線量10ミリシーベルトを規定し、それをベースにその線量を超えるところで、集中的に放射線防護対策を講じ、次に参考レベルを引き下げて、次の対策を講じる。

 ここで心配なのは、参考レベルとは何かです。

 参考レベルを基準に放射線防護対策を講じると、参考レベルがいずれ基準値に格上げされる心配があるのではないかということです。

 現行の勧告111が基準値として一番低い1ミリシーベルから選ぶよう推奨しているのに対して、参考レベルは線量の高いところから選ぶことになります。それが基準のように取り扱われると、実質的に基準値の引き上げになります。

 日本では、避難指示区域の解除では、この最上位の基準を採用しました。

 フクシマ原発事故後、避難指示区域は年間線量20ミリシーベルトを基準にして避難指示が解除されてきました。汚染が長期化する現在、それは、年間線量20ミリシーベルトで健康に影響がでるかどうか実験しているのと変わりません。

 そして、日本政府は小児甲状腺ガンの罹患者が200人を超えても、それは原発事故の影響ではないと主張しています。

 ある意味でこれは、年間線量20ミリシーベルトでも問題ないといっているのと変わりません。

 フクシマ原発事故、ICRPの関係者が多数日本を訪れています。日本では、ICRPが原発通常運転時の年間線量基準を現在の1ミリシーベルから20ミリシーベルトに引き上げたいのではないかという憶測が当時から広まっていました。

 ぼくには、今回のICRP勧告改正案が、そのための第一歩ではないかと心配でなりません。

 ぼくの心配が現実にならないことを願って止みません。参考レベルを導入するなら、それは年間線量1ミリシーベルだとはっきり定義すべきです。

まさお

注)

1)Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident, Update of ICRP Publications 109 and 111 http://www.icrp.org/docs/TG93%20Draft%20Report%20for%20Public%20Consultation%202019-06-17.pdf

フクシマ事故